青い花の布団

つかいこなせてません

 犯罪被害者は、例えば交通事故においては実際に巻き込まれた被害者とまた被害者の遺族も含む。犯罪被害者を研究する目的としては、犯罪に巻き込まれないため、犯罪をなくすため、被害者の救済や回復の支援をより効果的に行うため、修復的司法に役立てるためなどが挙げられる。修復的司法とは、犯罪に直接関係のある被害者・加害者・地域などの話し合いにより、干潟・加害者の関係を修復することによって司法の実現を志向する活動のことである。決して、被害者の落ち度を探して状況を改善しようとすることは目的としていない。犯罪被害者は、死や深刻な負傷、身体的保全が害されたことによってトラウマ(心的外傷)を負うことがある。生物学的反応としては、ホルモンや自律神経のバランスに異常が起こったり、海馬の萎縮が起こる。また、極度の恐怖や無力感、絶望といった症状が現れる。トラウマを原因とする精神症候群のことをPTSDという。阪神淡路大震災地下鉄サリン事件を契機として、元は医学的な専門用語だったものが一般にも広く知られるようになった。基本症状としては、まず再体験が挙げられる。具体的には、体験が繰り返されるように感じたり、フラッシュバックが起こることを言う。また過覚醒というものがあり、睡眠障害や集中困難などが起こる。PTSDと診断されるには、それらの症状が認められるだけでなく、再体験があること、死の否認や人生のあらゆる事柄(仕事や家事、趣味など)に無関心になる「回避・麻痺」という症状があること、過覚醒があること、それらが一ヶ月以上持続しているという基準が設けられていて、それが診断の条件となっている。PTSDは一年以内に自然回復する場合も多いが、20%〜40%は長期間持続し、また自殺のリスクも高くQOLは低下してしまうという例がある。治療法としては、大きく二つが挙げられる。一つ目は、認知行動療法である。トラウマを語らせるなど回避している状況に直面させあえて暴露を行う。例えば銀行強盗の被害者を銀行に行かせ、何も起こらないことを体験させる恐怖条件付けの再学習もこの療法にカテゴライズされる。二つ目は、EMDRと呼ばれる方法である。トラウマ経験を想起しながら眼球運動を行うことを指すが、必要性とメカニズムはわかっていない。

 私は、PTSDとして診断されない激しい悲しみや精神的苦痛、虚無感などは精神医学的にはどのような言葉で表現されるのか、また治療法はPTSDと異なるのか疑問を感じた。PTSDと診断されるには「外傷的な体験に暴露されたことがある」という前提条件が欠かせないのだが、予期せぬ死は該当するにも関わらず、重篤な病気による死亡など十分に死別することが予期された場合の死別体験はこの条件から外れPTSDと認められないことが多いという。文献を参照すると、このような基準から外れたものを表す言葉として病的悲嘆反応という概念が存在することがわかった。ヒステリー症状や睡眠障害、幻覚症状など症候学的観点からみればPTSDと合致する。それにも関わらず、一般に知られていて、治療法も試行錯誤され、専門家からの援助の機会もあるPTSDに比べて病的悲嘆は基準(かなり形式的)から外れているというだけで専門家からの援助が乏しく、一般的に認知が低く理解されにくい、それゆえ回復への道のりは厳しいものになってしまうということは問題である。「どれくらい悲しいか」という主観的な感情を基準にやみくもにPTSDの診断の範囲を拡大することはふさわしいことではないが、基準によって抽象的にカテゴライズするだけでなく、カウンセリングやインタビューによって個別にアプローチをしその人に合った治療法を試行錯誤して症状の程度で患者に優先順位をつけることなく、平等に回復に向かっていくようするべきであると考える。